先日の飲み会で、隣に座った若い先生からまじめな質問を受けた。
『のじさんが小さな学校で陸上部を教えた時に、リレーで県大会で優勝し、全国出場させましたね。どのような指導をしたのでしょうか?』と。
現在の生徒数は、全校で77人と云う小規模中学校である。
柏市立手賀中学校
生徒総数77人
1年生:26人
2年生:15人
3年生:36人
特別支援学級:1人(内数)
私がいた頃は、150名以上はいたと思う。
柏市と云う大都会に在って、純農村地帯である。
私がいた時は、合併前で沼南町であった。
日本で一番汚れていた『手賀沼』の南側にある小さな学校であった。
この学校で9年間教鞭をとった。
私の中学校教員の最後の学校であった。
質問は、1997年の4×100mリレーで全国出場をした頃の話である。
その頃の私の考えは、陸上部だけで大会に出るのではなく、陸上競技の大会に興味があり、記録会や大会に出たいものは、誰でも参加できる体制を作っていた。
男子の部活は、陸上、野球、バスケット、卓球。
女子は、陸上、バレー、バドミントン、ブラスバンド。
学年で男女で50名足らずの生徒数だったので、平均したら一つの部に5人である。
どこかの部が10名集めてしまったら、入部者ゼロ部が出現してしまう。
そして、運動部で専門的に指導ができるのは、私しかいなかった。
後は、素人の先生が一生懸命勉強しながら教えていた。
陸上部は、男女で50名ぐらいいたから、全校生徒の3分の1が陸上部だった。
私の得意技は、生徒と目があったら詐欺師のように、口から出てくるのは褒め言葉と将来の夢物語ばかりである。
3人に一人は、口説き落とされてしまうのである。
つまり、陸上部以外は、部がまともに成り立っていなかったのである。
陸上部の生徒を野球の試合に貸し出したこともたびたびあった。
そして、陸上競技は個人種目なので、大会で入賞したりすることが容易にできた。
全校集会などで、表彰されるのは陸上部ばかりであった。
それでは、かわいそうだと思った私は、ある時から「全校陸上部」と云う体制を作ったのである。
陸上競技の場合、1種目3名ぐらいが出場できる。
100m、200m、400m、800m、1500m、3000m、幅、高、砲丸投、三種競技・・・
これだけでも30名は選手の枠がある。100mなどは学年別だから、もっと増える。
つまり、陸上競技は、たくさんの生徒が選手になれるのである。
大会で自己新記録を出したら、ジュース1本おごり。
県大会出場したら、ラーメンをご馳走する。
全国大会に出場したら、ラーメン、回転寿司、焼き肉の食べ歩きコース招待。
純農村地帯の田舎の学校だから、これが大当たり。
手賀中学校は、どの大会でもフルエントリーである。
大選手団である。
何年か経って、15校ある葛南地区大会の新人戦で、男子優勝、女子優勝、男女総合優勝を飾ったことがあった。
またある年は、60人いた学年の半分以上を県大会に出場させたこともあった。
葛南地区とは、今世間をにぎわしている白山中学校や我孫子中学校、鎌ケ谷市の中学校のそうそうたるスポーツ学校がひしめく地域である。
陸上部の規則は、簡単であった。
部活をさぼるのも、練習をやらないで遊びに行くのも自由。
その代り、必ず欠席の連絡をすること。
ある時まじめな女の子が、私の所にやって来た。
「先生、○○さんがいつも、練習をしないで遊んでいます。注意してください、」と。
私は、まじめに答えた。
「彼女は、きみよりもずっと素質がある。わかるだろう。さぼっている彼女を私が熱心に教えたら、きみはそれで喜ぶのかな。」
「いいえ、それは嫌です。」
「私は、練習をしない人に罰を与えたりはしない。教えないだけだよ。そして、まじめに一生懸命練習している人に、いい思いをしてもらいたい。だから、きみにはいつも一生懸命教えている。それでいいんじゃないのかな。」
「はい、わかりました。」と。
私が若い先生に教えたのは、子どもたちや学校の環境で、どうしたら目標を達成できるかの問題解決能力を高めることが大事だと言うこをお話しした。
子どもをよく観察し、良さを見抜き、それを引きだしてあげる。
練習を一生懸命する子には、夢や目標が出来ている。
そのような子を教えるのは簡単である。
問題は、素質があるのにやる気のない子の指導である。
それは、練習を怠けていても、過去の経験から勝てる自信があるからだ。
だから、その子に負けていた子を育ててあげれば、必ず不安になって練習をするようになる。
それまでは、好きにさせておくことだ。
無理やりやらせる監督がいるが、それは監督の欲望に他ならない。
若い先生の学校に、1年生の男子生徒で2000mを6分5秒で走る選手が入部してきたそうだ。
ものすごい選手である。
私は、その選手をもっとよく観察して、記録だけでなく過去の練習環境や親の考え、兄弟の活躍、ありとあらゆる情報を集めて、良く理解することが大事だということを伝えた。
記録がいいからと、そのまま順調に伸びるとは限らない、あるいはもっととんでもない選手に成長するかもしれない。
まず選手理解を深め、その後で目標を立て、その目標達成の指導がスタートするのであると。
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