私が勤めている会社は、昨年まで社員が一般職、技能職、総合職という3つの職種に別れていた。
今年度から給与体系の変更にともなって、一般職と総合職の2種類になった。
一般職とは、限定正社員に似ている。
同一会社の中での広域移動はあるが、グループ会社の間での移動は無い。
営業部門は、原則として大卒で、総合職となる。
一般職があるのは、私の勤めている物流部門の現場職である。
毎年高卒の社員が2名入社する。
その時の本人の学業成績や希望で総合職となる者もいる。
一般職と総合職との一番の違いは、昇給額である。
一般職は、今のところ年に1000円の昇給額である。
それに対して、総合職は3000円とその3倍になる。
18才で入社して、一般職は10年後に、1万円の昇給額であるのに対して、総合職は、3万円の昇給額である。
例えば初任給が15万円だとすると一般職は10年経っても16万円にしかならない。
一方、総合職は、18万円であり、最初の昇任である「サブリーダー」になっている確率が高い。2万5千円の手当が付き、20万5千円となる。
現業職である彼らの一ヶ月の残業は平均して50時間を超えている。
安く見て1時間1500円の手当とすると7万5千円となる。
忙しい時は100時間を超える者も2,3人いた。
40歳代の一般職で、基本給が20万円以下の者がいたが、彼の残業代は100時間を超えていたので、残業代が20万弱となり基本給と変わらなかった。
ちなみに彼の夏のボーナスは、25万円以下であった。
最近、私の相棒が元気がない。
相棒と言うより、正しくは私の上司である。
今年入社5年目の総合職の社員である。
どんな悩みかというと、35才の一般職の上司と50才ぐらいのこれまた一般職の平社員のいじめに遭っていると言うことである。
いじめと言っても、意図的ないじめではなく、彼らが自分たちだけでチームの仕事内容を決めてしまって、直前まで情報を流さないので、先が見えないという愚痴のような類である。
私の所属するチームは保管チームと言って、社員が4名とパートが3名の7名編成である。
その7名で4階建ての総床面積4000坪の倉庫の保管業務を担当している。
毎日容積率100トンのぐらいの量の整備品の保管作業と同じくらいの量の集荷業務を担当しているわけである。
例えば、ここのところはAKBのイベントでリース商品を200トンぐらい出荷する。
2トントラックで100台分の荷扱いである。
毎日が戦争のように忙しい。
朝から晩まで、整備品を2階から3階や4階にエレベータを使って移動させ、自分の担当の2階の整備品を預かり、きちんと片付ける。さらに次の日に出荷する商品の集荷作業だ。
私は主に保管を担当し、相棒の社員が集荷業務を担当している。
どんなに忙しくとも私はパートなので6時には、仕事が終了する。
後は、相棒の社員が一人で集荷と保管を行うことになる。
もう一つの私の仕事は、相棒が愚痴を言って来た時に、それを聞いてなだめてやる役目である。
「彼らは、一般職で自分の将来の出世や賃金に大きな不満を持っている。それにくらべて、お前は入社した時から総合職で、将来に対して夢一杯だ。そうだろう?」
「そうです。自分は、早く役職をもらって給料をたくさんもらいたいと思ってます。」
「私が思うに、君は仕事は一般職並みだが、給与だけ総合職のような感じだ。」
「自分は、一生懸命やっていると思っているのですが。」
「私には、そのようには見えない。」
「どうしてでしょうか。」
「それは、君は一生懸命「動いている」かも知れないが、「働いて」はいない。」
「どういうことでしょうか」
「君は、訓令と命令の違いがわかるか。」
「よくわかりません。」
「訓令というのは、社長やこの会社で言えばセンター長の考えを聞いて、それを具現化して、仕事をすることだ。わかりやすく言えば、いちいち直属の上司からの情報を待っているのは、命令で動く一般職のレベルだと言うことだよ。」
「自分は、直属の上司であるリーダーから事前に、仕事内容や方法を教えてもらいたいと思っています。」
「直属の上司は、一般職で、残念ながら自分のことだけで精一杯で、部下のことを考えられる余裕がない。下手をすると自分の仕事さえ、ろくろく出来ない。長年この会社で働いているので、仕方なくチームリーダーの役職を与えてだけだ。」
「そんな人がリーダーになるのは、自分は納得がいかない。」
「そんなこと言って、この会社に君の理想とするリーダーが何人いるか?」
「2,3人です。それもチームリーダーではなく、その上のグループ長です。」
「そうだろう?チームリーダーが、6人ほどいるが、全員使えない。それがこの会社の現状だ。君を含めて君の下に4人の総合職がいるが、その4人がやがてチームリーダーになった時に、この会社の中枢となって働けるようになるのが、総合職の役目だ。」
「そうですね。」
「私はパートだけど、君と組んで半年以上過ぎたが、何か仕事のことで、私に教えてくれたことはあるか?」
「ありません。」
「私は、常に訓令で、仕事をしている。私の仕事は、以下の二つの文章だ。
① 保管の業務と集荷の業務を行う。
② グループ長の命による業務を行う。
つまり、情報を自分でキャッチして、一日の仕事を把握し、自分の仕事を割り振りしている。もちろん相棒である君の仕事の支援も行っている。君からの頼み事は、上司の命だと受け止め、二つ返事で最優先している。ちがうか?」
「そのとおりです。」
「ついでだけれど、私が注目しているのは、1ヶ月に一度本社から来る社長の訓辞と一週間に一度の朝礼でのセンター長の課題を、毎日の仕事の目的の根拠として受け止め、グループ長の動きやチーム長の動き、関係する社員の動きを細かく観察している。そして、私との利害関係の働く仕事には、容赦なく厳しい態度で臨んでいる。」
「私が言った『君は給与は総合職で仕事は一般職並』という言葉が、まちがっていましたか?」
「いいえ。間違っていません。」
「先輩に意地悪される時は、君が生意気で、仕事もろくに出来ないくせに、楽をしようと企んでいることがばれてしまっている時だ。逆に先輩の仕事を手伝い、先輩に楽をさせてやろうと仕事すれば、彼らは君を褒める。その時が、君が総合職にふさわしい仕事をしている時だ。情報は、直属の上司からではなく、その上のグループ長からキャッチし、仕事を先取りしていくことだ。」
「ところで、沈んだ気持ちは少しは、楽になったかな?」
「だいぶ楽になりました。」